読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

パルナ書房

京の表は壬生、裏に回れば島原の町の本屋~2013年4月でパルナ書房は閉店いたしました。

熊本の長崎書店 〜 日本で一番幸せな書店員がいる本屋さん

年始早々、元旦から九州へ。博多と熊本に参りました。
博多ではブックスキューブリック箱崎店、熊本では長崎書店と橙書店へ訪問しました。
どのお店も話題たっぷりで紹介しきれません。
なので、今回は長崎書店のお話です。
http://nagasakishoten.otemo-yan.net/

長崎書店はこの数年で全国の出版業界で知られるようになりました。
私もその存在を知ったのは2012年の秋です。
4代目の若き後継者がお店を一新したことで注目されたのですが、
なかでも2010年におこなった「ラ!ブンコ」フェアというアイデアで業界を驚かせたのです。
熊本出身の著名人100人にオススメの文庫を1冊推薦してもらい100冊の文庫フェアを開催しました。
ほら、毎年夏になると「新潮夏の100冊」なんてフェアが書店店頭で開催されていますよね。
あのイメージの文庫フェアを熊本の著名人を切り口に独自の展開をしたわけです。
簡単に言いましたが1人じゃなくて100人の著名人にアプローチしなくてはならないわけです、
それも熊本在住とは限りませんからね!これは本当に大変なことですよ。
いったいどんなスタッフが運営しているのか興味津々で伺った次第です。

博多から熊本へは新幹線でおよそ30分余り。
かつては在来線で1時間半以上かかったようですが、
2011年に九州新幹線が開通し便利になりました。
熊本への観光客も増えたようです。
その反面、通勤圏内になり熊本市民が買物に博多へと流れる可能性が出てくるのですが
それはまた別のお話。

交通費こそかかりますがびっくりするほどの早さですね。
感覚的にはJR新快速で京都から大阪に行く感じ(27分)です。
本をゆっくり読んでいる暇もありません。

熊本駅から熊本市電に乗って15分ほどで熊本の繁華街の象徴であるアーケード街に着きます。
このアーケード街は上通、下通、シャワー通りの三つに分かれたL字型で全長1kmほどです。
ここに来てびっくりするのがアーケード街の大変な賑わいと若者の多いことです。
実際に人口統計でも若者人口が全国と比べて多いのが特徴です。

九州新幹線の開通のためか、熊本駅前は新しく整然と整備されているのですが、何もありません。
ここも地方によくある画一化した殺風景が広がっている街かと落胆したのですが、うれしい裏切りです。
京都生まれの私は九州といえば福岡、博多が最も大きく進んでいる都市とのイメージがありますが
実は熊本は明治維新後、最も早く近代化が進んだ都市なんです。
例えば九州で一番早く新聞支局、放送局が開設された都市であり、
昭和初期までは九州で最大の人口を誇る都市であったとのこと。
よって今も熊本の人たちには九州で最先端の街であるという高い自負があるようです。
商店街のアーケードといえば昭和の古いイメージがありますが、
ここはファッションセンスも高く、全国に先駆けて有名ブランドが出店する街とのこと。

駅から離れたところに繁華街があるのが不思議ですが近くに熊本城があります。
元は城下町だったのでしょうか?
機会があればアーケード街の由来を調べてみたいものです。
京都でいえば河原町のそれですね。
「通町筋」停留所で市電を降りアーケード街に入ってしばらく歩くと長崎書店です。

すぐお向かいに「金龍堂まるぶん店」という大きな書店があるのに驚きます。

他にもこのアーケード街の周辺には大きな書店がたくさんあるんです。
熊本の知性、文化土壌の高さを感じさせます。

さて、長崎書店です。
店の前には、小学一年生や週刊誌、漫画雑誌等があり、普通の本屋さんと同じ店構えとなっております。

これは長崎書店がセレクトショップではなくて「普段使いができる本屋さんですよ」というメッセージですね。

入ってすぐに気がつくのは電球によるオレンジ色の落ち着いた照明です。
インテリアショップやお洒落な雑貨屋さんのようなイメージです。

驚いたのは入口左手に美術書、芸術書コーナーがあることです。
青幻舎の「パラパラブックス」があります。

なかなか売りにくい美術書を入口に持ってくるところが長崎書店らしさをアピールしています。
普通の本屋さんならまずは雑誌や「るるぶ」といった旅行ガイド誌コーナーをもってくるところです。
そして右手には九州に絞ったガイド本があり、九州の郷土本、歴史書へと広がります。

そこから壁沿いに人文書とスムーズに展開されていきます。

中央通路には右手にベストセラーの文芸書やセレクトされた雑誌、書籍が並び、フェア台へ。
奥には新書コーナーがあります。

左手にはレジを挟んで、平台にイベント告知ペーパーがあります。

児童書コーナーが大きく展開されています。
長崎書店は児童書にも力を入れているんだなということがわかりますね。

そしてようやく雑誌売場が出てきます。

奥の壁面には旅行ガイド書がずらりと並んでいます。

地域別に判型関係なく陳列しているのが大きな特色です。
だから目的の土地のガイド本がすぐに見つかりますし、
ムック本がいいのか書籍タイプがいいのかが選べますね。
どこの書店でもやっていそうですがどの書店もこのような陳列はしていません。
なぜなら商品管理が大変だからです。

あれ、よく見るとビジネス書もガイド本の手前にありますね。

普通はビジネス書は入口やレジ近くのベストセラーコーナー近くにあるものですが、
長崎書店では一番奥にあります。
文庫本も奥ですね。

中央通路右手に戻りましょう。
バーゲンブックコーナーがでてきました。
このバーゲンブックも浮世絵師の「鈴木春信」の本などがあり見過ごせないので要チェックです。

その横には奥まった小さな茶室のようなスペースがあります。

ここはギャラリーですね。
私が訪問したときは年末年始ということもあってか手帳コーナーとなっていました。
ギャラリーなら素敵でしょうね。
そこだけがパラレルワールドと化しています。

そこを出ると右側壁面にかけてがコミックスコーナー。
POPやポスターを見ればコミックスにも力を入れていることがわかります。

通路側には文庫コーナーが2列あります。

その奥の壁面が精神世界のコーナーです。

サブカルとはまた違った知の空間といったイメージです。
棚に詳しい注釈がついているのが印象的でした。

ざっと長崎書店の案内をしてみましたが、すべては伝えきれませんね。
私の勘違い、ウラ覚えもあるかもしれませんのでご容赦ください。

しかし棚だけを見ても長崎書店の本当の凄さはわかりません。
私が長崎書店に注目した理由は今までの書店の役割を超えた存在になったからです。
前述のラ!ブンコ・フェアを展開することで、
参加した著名人が自ら推薦した本が売れているか気になり長崎書店に足を運んだとか・・・
つまりフェア開催期間は多くの著名人が訪れるスポットとなったわけです。
しかも、毎年開催されるラブンコ・フェアでは著名人は重ねない仕組みですから、
4年目の今年で400人の著名人とつながったことになります。
結果として長崎書店は熊本の著名人と最も多くのつながりを持つ場所となりました。
いわば熊本の文化の拠点となったといえます。
これほど地域に強烈な存在感を現した書店がかつてあったでしょうか?
そしてどうしてこんなことが可能なのでしょうか?
店長一人の力ではとてもできることではありません。

実際に長崎書店に訪れたとき気がついたのがスタッフの多さです。
通常の書店よりも倍近く多いのではないかと思いました。
スタッフが多いから一人一人に余裕があるのでしょうか?
皆さんに声をかけてご挨拶すると、とてもにこやかにお話しくださいます。
話が弾んであっという間に10分20分と時が過ぎます。
それも全員がそうなんです。
この接客レベルは書店のそれではありません。
もはや一流ホテルのそれです。
私が店長であったときは日常業務に追われてとてもお客さんとじっくり時間をかけて交流することなどできませんでした。
それはどこの書店でも同じだと思います。
10分立ち話すれば、イコール10分残業・・・それが書店の現場の現実です。
不況のあおりを受けて毎年人件費が削減され、書店員は消耗しています・・・

長崎書店とて皆さんそれぞれの業務で大変だと思うのですが、
そんな様子は微塵も表情に出てこないのです。
そして皆さんに共通して出てくる言葉が
「長崎書店で働きたかった、長崎書店で働けて良かった」
という言葉です。
おそらく日本で最も幸せな書店員がいる本屋さんではないでしょうか。
これが今回、長崎書店に訪問して得た、一番の収穫でした。

彼らと一度お話すると、もう次から他の書店では本が買えなくなりますね〜
私も既に長崎書店ファンになってしまったようです。

実はこの長崎書店は2000年半ば頃までは大変厳しい状況にありました。
4代目の若き後継者、長崎健一氏による感動的な再生の物語があるのです。
そのあたりのくだりは「『善き書店員』木村俊介 ミシマ社」に自ら詳しく語っておられます。
私も長崎社長に当時のお話を伺いました。
いつか機会があれば改めてご紹介したいと思います。