パルナ書房

京の表は壬生、裏に回れば島原の町の本屋~2013年4月でパルナ書房は閉店いたしました。

パルナ書房、閉店の考察〜出版業界紙「文化通信」寄稿後編〜2009年

2004年2月に売上が好調時の50%に
廃業か新規出店、あるいは業種転換・・・
いずれも決断できずにいたところ取次担当者i氏に
「店長、この店は雑誌とコミックしか売れていないよ、書籍を返品してコミック中心の棚構成にしたら?
在庫減らそうよ資金繰りも楽になるしさ、そしたらコミックは僕が責任を持って送品させるから」
と標準語で提案される。
雑誌、コミック、そして新刊文庫の店に割り切ることにした。

少々やけくそな気分もあってその日のうちに一気に返品、ガランと空いた書籍棚・・・
コミックが送品されるまでどうしたものかと思案していると
学生アルバイトの一人が当時流行っていた大人絵本を飾りたいと提案してきた。
彼女は紺の布を棚に張り、「エロール・ル・カイン」や「エドワード・ゴーリ」を面出しにして
コピー用紙に黒マジック一本でゴシック調のPOPをサラリと書いた。
そこはだけはまるでセレクトショップのような雰囲気だ。
私も版元別あいうえお順を廃し”女流エッセー””日本語””裏社会””警察小説”など
テーマ、ジャンル別にさらに書籍も雑誌も混在の棚にした。
お客様の反応も上々で
「この作家のコーナー作ってよ」といったうれしい声も出てくる。

担当i氏もしばらくこのままにして数字を見ましょうよと言い出し、
北山の優里菜書店を紹介してくれた。
店長の小西氏(現レティシア書房店長)は単なるジャンル分けではなく
「西村京太郎と内田康夫ファンはこちら!!」
といったお客様の嗜好性を捉えた棚作りをされていた。
衝撃を受けた!
その後、名店からセレクトショップまでドンドン他店チェックを始めた。
様々なジャンル、陳列手法を発見するなかで
異なる店に共通の単品銘柄、定番商品があることに気づく、
同じ本でもいろんな提案方法があるということだ。
町の本屋に欠けているのは新刊ベストセラーではなく、
提案型の棚であり、他店チェックという書店業務そのものである。

さて数字だか
2月の半ばから改革を始めて
3月は-6%
4月は-3%
5月は+-0
6月には若干ではあるがプラス成長に転換した

棚作りの中で、歴史の中に全てのテーマを取り込めないかとひらめく
私自身歴史好きということもあり
「娯楽としての歴史コーナ」
日本史、時代小説だけにとどまらず、
古代においては古事記日本書紀といった神話、宗教、
そして平安から中世にかけては王朝文化の中で古典の展開。
万葉集百人一首は文学だけではなく歴史資料としての側面もあり
日本史の古代を語るには中国、朝鮮半島にも触れねばならない。
孔子論語司馬遷史記・・・漢文のコーナにもなる。
農耕、食、芸能、男女関係、文化史美術史、全てにおいて歴史の変遷がある
これまでそれぞれ別々の分野として陳列されていた棚だ。
パルナ書房の20坪という小さなスペースを逆手にとって、
歴史というテーマで括ってしまおう、それぞれのテーマの棚を上下左右に関連
付ければこれはすごいぞ!

もちろん、この構想(妄想か?)は大失敗に終わった。
後に滋賀の本のがんこ堂O部長に
「誰も町の本屋で専門書は買わないわよ」
とごもっともな指摘を受けた
専門書を購入する顧客は最初から必ず在庫がある大書店に行くからだ。
考えてみれば私も学生時代はわざわざ梅田の紀伊国屋に行ってたものだ・・・
その時の返品率などとてもこの紙面には載せられない。

とはいえ、書籍全体の売上は文庫を中心として20%以上あがった。
文庫だけで+50%なんて月もあった。
近くに大型スーパーが出店したこともあり客数が増え
売上全体でも2006年6月昨対+14%、同7月昨対+15%というバブル並みの上昇だ

狙いの歴史書は失敗に終わったが
その中で唯一売れたのが時代小説だった、そこで時代小説を拡大した。
司馬遼太郎池波正太郎藤沢周平の御三家と
そのころから爆発的に売れ出した佐伯泰英鈴木栄治風野真知雄などのいわ
ゆる「書き下ろし時代小説文庫」の二本立てで展開

司馬遼太郎を戦国と幕末に仕分ける
「黒舟来航〜日露戦争、日本近代化50年の軌跡」
これは「坂の上の雲を」のキャッチコピーだ
自店帯を作り背表紙に
「覇王の家」なら”徳川家康
「峠」なら”河井継之助
とだけ書いた。
棚差でも内容がわかるようにするためだ。

ある日年配のお客様に佐伯泰英の「居眠り磐根」の一巻をおすすめしたところ、
後日全巻購入された。
以来、佐伯泰英の「居眠り磐根」「密命」の一巻目を
「だまされたと思って読んでください」
とレジから声をかけることにした。
20坪だからできることだ。
面白いように売れた。
佐伯泰英は100冊以上シリーズがあるので何か一冊読ませることができれば
大変なリピータが生まれることになる。
まさに高齢者のコミックではないか。
ドンドン時代小説の売り場は広がっていく
また、時代小説の最近の売れ筋シリーズは実は双葉社祥伝社といった中堅どころの版元が中心である。
よって事前注文をすれば新刊配本をつけてくれるところが多い。
これは町の本屋にとってはありがたいことである。

その過程で気がついたのは高齢者をターゲットとした棚の重要性と出版業界は
高齢者への配慮、積極的なアプローチが欠けるのではということである。
一例を挙げれば巻数を間違えて買うお客様が複数おられた。
老眼の影響か、どうも背表紙の小さな数字ではわからないようなのだ。
そこで時代小説に限っては巻数を間違えて購入された場合、
「返品交換しますから安心して買ってください」と一言添え、
大きな手書き巻数の帯を作成してとりつけることにした。

半径300メートルの年金をどうやって本屋で落としてもらうか、
この少子高齢と世界恐慌のダブルパンチの中、一番おいしいところのはずだが・・・

顧客対象を高齢化していくと書店の風景も変わってくる

年始の挨拶にご来店されるお客様、飴玉の差入れ、卸市場の花を下さったり
ご自分の時代小説購入ノートを私に見せて買ってない本をチェックさせるお客様

ここにおいて初めてパルナ書房の顧客囲い込みが戦略が機能した。

時代小説の健闘もあって文庫は200804-09平均20%プラスを達成した

振り返ってみるとパルナ書房の戦略、棚作りのきっかけとなったのは
取次担当者のサゼッションによるところが大きいことがわかる
昨年雑誌配本をめぐって取次雑誌部ともめた事があった
土曜日の昼下がりわざわざ支店長S氏が雑誌一冊のために来店された。
その時の一言が今も忘れられない
「もっと取次をうまく使ってください」

取次ぎは批判するより活用せよだ!

それでもマンネリは始まる
今年に入って急速な売上低迷
そして競合店の出店のうわさ・・・

今までの棚作りを一新することに決めた
売る棚と魅せる棚、セオリーをもう一度洗いなおせ!
勇気を持って新しい棚変えに挑戦したい。

                                                                                                                      • -

以上
この後のパルナ書房についてはまた次の機会にお話しします。